Halloween Night

Halloween Night
M'ay Library Vol.05 | 本場のハロウィンは、静かだった
M'ay Library — Vol.05

本場のハロウィンは、静かだった

— 見てきたもののこと —

10年ほど前の7月、留学のためにトロントへ渡りました。

行く前から決めていたことがあります。帰る前に、絶対に本場のハロウィンを見る。日本で見てきたものが本物ではないなら、本物はどれほど凄いのだろう。ずっとそう思っていました。

10月が近づくにつれて、街が変わりはじめました。

10月の半ばに、ケベックへ行きました。

観光地だったこともあると思いますが、街全体がハロウィンでした。大きなかぼちゃが置かれていて、魔女の絵が飾られていて、どこを歩いてもその季節の色をしている。

不思議だったのは、その中にクリスマスマーケットが何軒か出ていたことです。

ハロウィンの飾りの隣で、もうクリスマスが始まっている。日本だと、11月1日には街が一斉に切り替わります。前の季節はきれいに片づけられて、次が始まる。でもあの街では、両方が同時にありました。

急いで次に進むのではなく、重なったまま少しずつ移っていく。移っていく時間そのものを楽しんでいるように見えました。

トロントに戻ってからは、語学学校でハロウィンがありました。

休憩室に集まって、それぞれが出し物をするんです。キャラクターになりきる人がいて、歌う人がいて。私はもう卒業していたので参加せず、見ている側でした。

見ている側だったから、気づいたことがあったのかもしれません。

誰も、上手にやろうとしていませんでした。準備に何週間もかけた様子もない。ただ、その場を楽しむためにやっている。うまい下手を見せ合う場ではありませんでした。

そして、当日の夜。

歩行者天国になったストリートへ行きました。ずっと楽しみにしていた本場のハロウィンです。

正直に言うと、拍子抜けしました。

想像していたような大規模なパレードはありませんでした。どんちゃん騒ぎもありません。人はたくさんいるのに、思っていたより静かでした。

その代わり、みんな本気で歩いていました。

騒ぐでもなく、本当のお化けみたいに歩いているんです。目が合うと襲ってくるピエロがいて、ジェイソンがいて。演じきっている、という感じでした。

かと思えば、牛やバナナの着ぐるみを着ている人もいます。本格的なメイクの人と、明らかに間に合わせの人が、同じ道を歩いている。誰も比べていませんでした。

写真を撮ってもらいました。

日本に帰ってきてから、渋谷のハロウィンの映像を見て、少し驚きました。

私が海外のハロウィンに思い描いていた賑わいは、むしろこちらの方に近いかもしれない。そう思ってしまうくらい、あの夜は穏やかでした。

もうひとつ、違いに気づきました。

日本のハロウィンには、コスプレが含まれています。好きなキャラクターになる。これは日本で新しく生まれた文化だと思います。

トロントで見たのは、ピエロやフランケンシュタイン、名前は忘れてしまったけれど、いかにもという顔をした人たちでした。怖いものばかりです。

日本のハロウィンが「なりたいものになる日」だとしたら、あちらは「怖いものになる日」なのかもしれません。

Everyone was enjoying it
in their own quiet way.

期待していたのは、規模の大きさでした。

でも、覚えているのはそこではありませんでした。ひとりひとりが、自分のやり方で楽しんでいたこと。誰かに見せるためでもなく、競い合うでもなく。本格的な人も、牛の着ぐるみの人も、同じように楽しそうでした。

思い思いに、というのはこういうことなのだと思いました。

今年のM'ayのハロウィンは、あのとき見た景色を持ち帰ったものです。

全部で10種類あります。

かぼちゃの並んだものもあれば、お菓子でいっぱいのものもあります。ふんわり可愛いものもあれば、少し本格的に振り切ったものもあります。

並べてみると、まとまりがありません。

途中で気づいて、それでいいことにしました。あの夜、本格的なメイクの人と、牛の着ぐるみの人が、同じ道を歩いていたのを思い出したからです。

No one was comparing.
Everyone was simply enjoying it.

今日はそのうちの2作をお届けします。

Fairy Tale Collection
Alice, Still

お茶会が終わったあとの庭に、彼女はまだ留まっています。追いかけるのをやめたとき、時間も一緒に止まりました。

Ruby Slippers

かかとを鳴らせば帰れると知っていて、それでも歩き続けた少女の話です。

どちらも、元の世界に戻らなかった少女の物語です。ハロウィンが一日だけ違うものになれる日だとしたら、この二人は、戻らないことを選んだのかもしれません。

残りは、これから少しずつご紹介していきます。

10種類のうち、どれを選んでいただいても構いません。可愛いものでも、怖いものでも、お菓子だらけのものでも。ハロウィンはこうあるべき、という形はないと思っています。

誰かに見せるためではない、自分のためのハロウィンを。
思い描くとおりに、思い思いに楽しんでいただけたらうれしいです。

次回は11月です。
ずっと欲しかったのに、日本では手に入らなかったものの話をしようと思います。

— M'ay